game of love.






「俺は生物の方がロジカルで面白いと思うけどな」




3ヶ月ほど前くらいのことなのに鮮明に思いだせる、あの目あの声あの唇。
思えば手塚としゃべったのはあれが初めてだった。
そしてわたしは、まんまと教科選択で生物を選んでしまったのだった。
(ちなみに、logicalの意味は未だに知らない)




わたしは手塚の何気ない一言から、人を好きになるのに
大した理由なんて要らないということを知った。



********



「ねえ手塚、」

「なんだ?」

「手塚って好きなコとか、いる?」

「・・・・は?」


「いや、だからあのさあ、好きな子いるー?って。」

「居ない。俺は、そういうことに今興味が無い。」

「・・・ふーーーん・・」



嘘のような気もしたし本当のような気もした。とりあえず、うまくかわされてしまった。
わたしはすることが無くなって、眉をひそめて手塚のノートをのぞきこむ。
ビッシリと書き込まれたノート、わたしよりも几帳面でグッときれいな字。
筆跡はやや弱めで、鮮やかに走り書きされた数式にわたしは軽い眩暈を感じる。





「何か数学わからないとこでもあるのか?」

「や。違う、ただ、手塚は頭いいよなって。」

「褒めても何も出ないぞ」

「別にそんなつもりじゃないもん。」


「ただ手塚とあたしは次元が違うなって思っただけだもん」

「・・・・・・・」



最後がセリフに思いがけずヒガミっぽくなってしまった。悪意は無いのに。



手塚は黙り込んでて、いよいよ気まずい。







*****


「別に俺との次元は一緒だと思うんだが



しばらくして、手塚はそう言うと少し笑ってわたしの頬を両手で挟んできた。


その目つきはなぜか半分冗談で半分本気。え?何?と聞こうとしたら、
間髪入れずに3ヶ月ほど前と変わらぬ薄い唇が近づいてきた。わたしだってばかじゃない、
何をされるかくらいすぐにわかった。

(間近で見た手塚の黒目は知的な匂いがした。)



でもなんで?手塚は好きな子いないし興味無いってゆったじゃん、
それも、今さっきゆったばっかじゃん。でもどうしよう。さっぱり身体が動かない。






「からかわないでよ」





震える唇でつぶやく。ちょっと手塚の目が驚いたように少し見開かれた。
でも、わたしの精いっぱいの抵抗に、ひるむ素振りは全くなし。
きっと手塚にとっては、ばかなわたしの心を読むことも、
それを操ることも、たやすいことなのだろう。だからこんなにも強気な行動に出れるのだ。
憧れの混じった、この微かなわたしの思いはきっと、バレている。とうの昔に。



スポーツにしろ、色恋にしろ、勝負というのは最終的に頭脳戦なのだ。手塚なんかに勝てっこない。







------負けを確信した瞬間に、クタッ、と全身の力が抜けた。
すると、それを待っていましたとばかりに、わたしの頬に添えられていた大きな手は
ずうずうしくも背中に回ってきた。








もうわたしは抵抗しなかった。





the end.

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logical;論理的な,筋の通った



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