winter blue, winter school. 「俺は疲れただなんて、相当ウザいよね?」 吐き捨てるように先輩が呟いたので、俺はリアクションに困った。正直、こんな悪態をついた先輩を見たのは初めてだった。別に最初から先輩は天使のように優しいキャラとはお世辞にもいえなかったが、でも、こんなセリフを言うなんて、俺は少なからず衝撃を受けた。 「今日はには近づくないのが得策だな」 「さわらぬ神に祟りなしー」 レギュラーの先輩たちが口々に言っていた言葉たちが今ごろになって甦る。先輩は今日は腫れ物のように皆から扱われていた。いつもは、いじられ役で、どんなに鋭いツッコミをされたって明るく笑い飛ばしているっていうのに。先輩はいつだってヘラヘラと、おちゃらけていなくちゃだめだっていうのに。俺は勝手にそんなことを考えて1人でちょっと怒っていた。先輩がこんなに表情が曇っているのは反則以外の何者でもない。 「ねえ先輩、」 「機嫌なおしてくださいよ、」 「 ごめん無理」 「じゃー、元気でも出してくださいよ」 「 もっと無理」 「どーせみんな知ってんでしょ、は、」 部室の床にしゃがみこんだまま、先輩は自分のことを鼻で笑った。自嘲的とは、まさにこのことだと思う。体育座りだから、もしかしたらパンツちょっとみえてるかも・・・と思ったけどよくよく考えたら先輩はジャージはいてるわけで、やっぱ見えるわけないかー、とか考えたりした。 「長太郎さー、もー練習戻った方がいいって」 「もう終わったんですよ、練習は。」 「嘘つき。」 「嘘ついてどーすんですか、もう外は真っ暗です」 「はぁ・・・・?」 「日が落ちるの速くなったんですよ」 「へー、、まあ長太郎アンタ先に帰んなさい」 「何でですか。」 「だって、アンタの近くにいたらあたしアンタに八つ当たりするだけだもん」 「そーですか?」 「うん。あたし今、最高に意地悪だから」 「別に俺、いーですよ」 「何それ」 「だから別にいいですよって。」 「長太郎・・・ マゾ?」 「違いますよ。もう!」 「先輩の気がそれで済むならいい、ってゆってんですよ」 そう、俺が出過ぎた真似をすることは、あってはならないことなのだ。どう間違っても、“慰める”だなんて、偉そうな言葉を使ってはいけないのだ。 「だからほら、帰りましょ、はやく立ってくださいよ」 「んー、やっぱほんとに一緒に帰るのー?」 「だって先輩なきそーな顔してんじゃないですか」 「・・・・・・痛いとこつかないでよねー、」
「う゛ー、さむい、」 「だってもう冬ですよ」 「そんなのしってるし!」 部室から出たら思いの他、外は冷たかった。夜の空気は淀みなく澄んでいて、尖っていた。先輩は身体を震わせて、俺の斜め後ろをノロノロと歩いている。先輩は時々空をみて、(あれってカシオペア座じゃん?)とか言っていたけど、それは全くのデタラメだった。本人が気付いてるのかは別として。先輩ってバカだ。 * * *
「じゃあね、世話になったね〜長太郎ー」 「いえいえ。」 「あっそ、それより長太郎さ、あんまり真面目に先輩の言うこととかきかないでいいんだからね」 「はい?」 「だからさ、こーゆーのさ、跡部とかに言われたでしょ?(ウザイからお前連れて帰れ)ってさ。」 「え、」 「だいじょーぶ。あたしが明日、跡部にゆっといてやるよ。」 軽くはにかむ先輩、やっぱすげーバカ(かわいい) 「頼まれてないです」 「はっ・・?」 「だから俺は、先輩が、」 「ちょ、、、長太郎、」 「俺は先輩のことが、」 「今日は、ほんとありがとね。」 先輩はそう言って、俺の言葉をさえぎった。俺に最後まで言わせてくれなかった。そして先輩は早歩きで俺とは反対側の道へとズンズン歩いていった。不思議と呼び止めようとは思わなかった。 ------------------ |